グレードなんて気にしちゃだめって言われるけど、やっぱり気になる…
グレード更新のために頑張って登った課題が「甘い課題」って言われた。
なんだかモヤモヤする…
このようなモヤモヤを経験したクライマーは多いのではないでしょうか。
自分が登れた課題のグレードは、誰でも気になるものです。
それは、ごく一般的で仕方のないことです。
クライマーには、高い数字を追い求める時期があり、そのモチベーションは正しく健全です。
さらに、「グレードを気にせず登る」ことが美化されがちですが、それが正解というわけではありません。
クライミングのひとつの楽しみ方として、
「グレードに囚われないクライミング」や「グレードを上げていくクライミング」があるだけなのです。
以下の文章では、グレードとは何か、説明していきます。
グレードについて理解が深まると、クライミングが少し違った見え方になるかもしれません。
この記事を書いた人
ぶちょー(クライミング飛鳥店長)
15歳からクライミングをはじめ、現在29歳。
趣味は読書やカメラ。
【登ってきた主な課題】
最高RP 四段 5.13d フルチャージ(四段) Midnight Lightning(V8)などなど
グレードの意味
まず、クライミングにおけるグレードは、課題の難易度を表すものとされていて、技術やフィジカル的な要素、リスクなどを考慮して決定されます。
早速ですが質問です。
あなたは「グレードの意味」について考えたことはありますか?
そんなの、その人の実力を証明するためのものだろ?
と、思うかもしれません。
しかし、そこには大きな罠があります。
なぜなら課題の難易度(グレーディング)というものは、人によって感じ方が違い、多くの要素が絡み、とても曖昧なものとなっているのです。
さらに、グレードは設定している人の主観を基準に、ただ数字の予想をしているだけに過ぎないのです。
要するに、現在多くの課題のグレード設定は
「設定者による感覚的な基準の影響が強く、曖昧なものである」
ということです。
例えば、あなたが1級を登れたとします。
しかしそれは、「設定者が多数の人が納得できるであろう、【1級】という数字の予想をつけた課題」が登れた。
というのが適切な言い方になるでしょう。
「1級を登れた!これで俺も1級クライマー!」
「それはお得な1級だよ、その課題では1級クライマーとは名乗れないよ。笑」
「…。」
とまあ、こんな感じにモヤモヤする場面を経験した人も多いのではないでしょうか。
現在のグレードシステムは、クライマーの実力を正確に証明するには不十分です。
ある程度の実力の証明にはなりますが…
本題の、「グレードの意味」に戻ります。
実力を証明すること以外にグレードの意味はあるのでしょうか。
他のブログや雑誌を参考に、少し考えてみました。
- 課題を選びやすくし、成長を促す
- コンペ等のカテゴリー分けを容易にする
- プロクライマーがPRするため(実力の証明)
- リスクある課題をトライするか決める指標
- 課題に価値をつけるため
上記には載っていないグレードの意味がありましたら、コメント下さいね。
このように、グレードというシステムには、実力を示す効果以外にも多くの意味を含みます。
グレードの正確性
前項で、グレードシステムは曖昧で、クライマーの実力を正確に証明するには不十分だと説明しました。
では、モヤモヤの原因になる、曖昧さはなぜ生まれるのでしょうか。
そして、グレードの正確性を高めるには、どのようなどのような対策を講じればよいのでしょうか。
一緒に考えていきましょう。
曖昧になる理由
まず、曖昧になる原因はクライマーが「体感を数値化していることによる、正確性の欠如」です。
これがグレーディングの罠であり、クライマーがグレードでモヤモヤする要因です。
深堀りしていきます。
グレードというものを曖昧にしている要素は、以下の通りです。
- 基準の相違
- 偏り
- 心理的要素
- 身体的不利
基準の相違
グレーディングの罠の中には「基準の相違」があります。
ほぼすべてのクライマーには、各々にグレードの基準が備わっています。
どういうことかというと、登っているジムやエリアによって基準が違い、クライマーごとにグレード感は変化します。
例えば、あなたがグレード感の辛い場所に長くいるなら辛いグレードに基準があるのに対し、甘い場所に長くいるなら甘い基準を持っています。
基準はジムやエリアによってさまざまです。
1グレードや2グレードどころではない差が生れている可能性も・・・
基準の相違が起こるのは、グレードを設定する側に問題があると感じます。
ジムごとにグレード感の統一性がなく、衆議を集めることができていないのが問題です。
ただし、岩場でグレードをむやみに統一することは、そこに築かれた文化や多大な努力を否定することに繋がりかねません。
偏り(かたより)
他にもグレーディングの罠に陥る要素として、「実力や経験の偏り」が挙げられます。
クライマー自身に実力の偏りがある場合、グレードの基準が崩壊し、グレーディングの難易度が上がります。
想像しやすいのは得意不得意の偏りでしょうか。
傾斜や保持感、ムーブによって得意不得意の差が生まれ、偏るのです。
例えば、得意なスラブでは2級が登れるのに、苦手な強傾斜に行くと4級で苦戦する、というようなことが起こります。
その反対も然り。
それ以外でも、カチは得意だけどピンチは苦手…のようなことも起こります。
他にも、経験の差によって基準は変わります。
例えば、1級を100本登ったことがある方と、1級を3本しか登ったことのない方が同じ課題を登ったとします。
前者は1級100本のうち4番目くらいの難しさだと感じ、優しい1級というグレーディングをしました。
後者は1級3本のどれよりも難しいと感じ、これを初段というグレーディングをしました。
これはどちらかが間違っているわけではありません。
クライマーが、偏りによる「グレーディングの罠」に陥っているだけなのです。
心理的要素
グレードの偏りが生じる原因には、心理的要因も大きく影響します。
クライマーの精神面は主観的な評価に大きな影響を与え、グレードの偏りを引き起こします。
クライマー自身もこれらの心理的要因を理解し、意識的にグレーディングを行うことが重要です。
以下に、具体的な原因を挙げて、その影響を説明します。
自信の欠如
クライマーが特定の課題に対して自信を持てない場合、その課題を実際よりも難しく感じることがあります。
自信の欠如は特に、過去に同様の課題で失敗した経験がある場合に顕著に現れます。
プレッシャー
競技や他のクライマーの視線を意識することで、プレッシャーを感じることがあります。
このプレッシャーが、クライマーの判断力や集中力に影響を与え、グレーディングの正確性を低下させる原因となります。
比較効果
過去に経験した課題と新しい課題を無意識に比較することもあります。
例えば、最近登った課題が非常に難しいと感じた場合、その後に取り組む課題は相対的に簡単に感じるかもしれません。
逆に、簡単な課題の後に取り組む課題は、実際の難易度よりも難しく感じることがあります。
フィードバックの影響
他のクライマーからのフィードバックや意見も心理的要因として影響を与えます。
周囲のクライマーが特定の課題を難しいと評価している場合、その評価が自分の感じる難易度にも影響を及ぼすことがあります。
リスク
クライミングにおいて、恐怖心は多くのクライマーが経験する心理的な障害です。
恐怖は、クライマーの慎重さを増幅させます。
例えば、動的なムーブなら楽に登れる課題を静的なムーブで登れば課題の難易度は格段に上がってしまいます。
他にも、過去に怪我をした経験があったり、トラウマがあると慎重さが増し、グレーディングの正確性が低下します。
岩場で言えば、マットの有無、課題の高さ、リハーサルの有無などもリスクと難易度に差が生れます。
身体的不利
リーチの差や柔軟性は設定ムーブ自体に影響を与えるため、グレード感に偏りを生じることがあります。
その中でもリーチの差は、ムーブそのものを変えざる負えなくなるか、物理的に不可能にしてしまうことがあり、最もグレードの差を感じてしまう要因です。
この要因の悪影響は、リーチ的に不利なクライマーの自己評価とモチベーションを奪ってしまうところにあります。
この悪影響を軽減するために、自身に合う課題が揃っているジムで適切な課題を選ぶことが重要です。
正確性を高めるには
- 基準を作る
- 経験豊富なセッター
- フィードバックと再評価
- グレードシステムの教育
正確なグレードに近づけるためには以上の項目が重要です。
正確なグレーディング
正確にグレーディングをしようと思ったら、難易度の明確な基準を作り、経験豊富なセッターに頼み、多くのクライマーに意見を貰い、定期的に再評価することが必要となります。
さらに、クライマーの偏りもなくさなければいけません。
無理ですよね。
これはもう、ずっと前から議論されつくされています。
結論から言えば「多数の人が納得できる数字に近づけることはできても、正確なグレーディングなど存在しない」ということになります。
さらに、「これが基準と言われているグレーディングでも、腑に落ちない少数のクライマーが絶対にいる」ということにもなるのです。
グレードは曖昧なものであり、すべての人が同じ意見になることはありません。
一部のクライマーはグレードの価値を重要視し、さらには自分の基準を妄信し、押し付けます。
影響力のある意見や多数の意見という暴力に、少数派の意見は押しつぶされているのです。
これこそが「グレーディングの罠」であり、モヤモヤを感じる理由です。
モヤモヤを解消するためには、クライマー全体にグレードシステムの教育が必要なのです。
クライマー全体が「グレーディングというものは難しく、偏るものだ」という認識にならなければいけません。
「あなたはそう感じているかもしれないけれど、私はこうなんだ。」という主張をしてもよいのです。
基準のある競技や遊戯
段級システムを取り入れている他の競技は、卓球、柔道、剣道、将棋、囲碁などがあります。
いずれもクライミングのグレードシステムとは本質が異なります。
段級には明確な基準があり、他者の評価によって決められます。
基本ルールを覚えただけの状態が30級、基本的な技術が身につくと1級、8段でプロと互角の勝負が出来るとも言われる。
囲碁の段級
級位は市町村剣道連盟が、初段から五段までは都道府県剣道連盟が、六段以上は全日本剣道連盟が審査する。三段、四段審査に関しては、高等学校剣道専門部や大学連盟で、一般の審査会から独立して行われることがある
剣道の段級
クライミングにこれを取り入れるとしたら、階級を作り、ほぼ不変の岩場かセットの変わらないジムで登った記録をとって、協会に提出…でしょうか。
そのグレードの課題を数本登っただけでは偏りが生れるので、10本以上のそのグレードを登る必要がありそうですね。
なんにせよ、グレードの基準を作るには階級制度と、不変の課題が多数必要になります。
グレード設定者の責任
「グレードは曖昧なんだよ、それを受け入れようね。」
これだけでは、グレードを苦悩の上で設定してきた方々に対する冒涜であり、クライマーを納得させるに不十分で無責任です。
そして、曖昧さを受け入れてしまうことは思考停止です。
この項目では、「設定する者の責任」について考えていきます。
ここでいう設定者とは岩場の開拓者ではなく、ジム側の視点から述べていきます。
というのも、岩場のグレードを設定する方たちはジムの課題設定とは比べ物にならないほど、多大な労力を必要とします。
岩を探し歩き、掃除をして、課題を完成させる。
このプロセスの労力は想像に難くないでしょう。
僕は開拓の経験が乏しく、意見できる立場ではないので割愛します。
本題に戻ります。
「課題を設定し、グレーディングをする」という作業は、無責任に行えばクライマーに混乱をもたらし、喜びを奪ってしまいかねません。
そこで、グレードをつける場合のジム側の責任を並べてみました。
- 正確性の高いグレーディングに努めなければならない
- 多くの経験をもとにグレーディングをする
- 統一性のあるグレーディングをする
- 多くの意見を考慮する
- グレードの歴史を学ぶ
- 基準を明確にし、公表する
このように、ジムは正確性の高いグレーディングに努め、クライマー間でコミュニケーションを行うことが重要です。
まとめ
グレードとは曖昧なものです。
しかも、正解がありません。
それは、体感を数値化しているために起こる「正確性の欠如」が原因となります。
グレードはクライマーのモチベーション維持、成長の促進、ケガの抑制につながります。
しかし、ときにはグレードの曖昧さがクライマーの成長の足かせになる場合があります。
偏りが大きいと自分の実力の判断が鈍り、成長に適した課題を選ぶことが難しくなり、モチベーションや自己評価の低下を引き起こします。
これでは、上達をする上で大切な「達成感」に繋がりません。
偏りを最小限に抑えるには、グレードの理解と、自分に適した課題を選ぶ判断力を鍛えましょう。
そして、すべてのクライマーは思考停止をせず、「グレード」についてたくさん考えましょう。
グレードの歴史を学び、考え、あなたの考えを発信しましょう。
(匿名ではだめです。)
多くの人がもう一度議論し、納得のいく答えを探していくことが重要です。
グレードでモヤモヤしている方は特に。
あなたの発言が、現在のグレードシステムをより良い方向へと変化させるかもしれません。
「幸せとは」「生きるとは」のような哲学的な問いに近く、「グレードとは」という問いに答えを見つけるには時間がかかるのです。
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