クライマーは食事で強くなる。その6[エネルギーとケトン体]

前回の記事の断食の項で「ケトン体」という言葉が出てきました。

ケトン体とは一体何なのでしょうか。

この記事ではケトン体とは何かを説明したいのですが、ケトン体を説明するにはエネルギーの供給について、かなりコアな部分まで知ってもらう必要があります。

この記事を読むと分かること

  • 食事から得た栄養はどのようにしてエネルギーになるのか
  • 栄養とエネルギー持続時間の関係
  • 糖質制限するとエネルギーの供給はどうなるのか
  • 緩い糖質制限をするとどうなるのか
  • ケトン体とは何か
  • ケトン体の作られ方
  • ケトジェニックダイエットについて

記事の中間の内容が分からなくても、まとめを見れば大体は分かるようにはなっています。

目次

エネルギー源

はじめに、僕たちの筋肉の収縮はATPというものをエネルギー源として使っています。

ATPとはアデノシン三リン酸を指し、アデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)と無機リン酸(Pi)に分解された時にエネルギーが放出され、筋肉を動かすことができます。

ATPによるエネルギー放出は、体内のいろいろなタイミングで起きているのですが、このATPを再度得るためには主に糖質、脂質が必要となり、ADPをATPに再合成する3つの過程があります。

ATPを得るために〜解糖系〜

まず、食事から得た糖質は消化吸収されると、血液に流れ全身の筋肉へと取り込まれます。

筋肉に取り込まれた糖質はいくつもの過程を経てピルビン酸にまで変換され、その過程のなかでATPを作ります。

これをATP再合成するルートの一つ、「解糖系」の経路といいます。


出典:解糖系と乳酸とは?(ヒトのエネルギー供給)

ATPを得るために〜クエン酸回路〜

解糖系の工程で糖質はピルビン酸まで変換されました。

このピルビン酸は酸素が供給されないと乳酸となり、酸素が供給されると筋肉のミトコンドリアの内膜で”アセチルCoA”となります。

他にも脂質を消化して得られる、遊離脂肪酸もアセチルCoAになります。

アセチルCoA(活性酢酸)がクエン酸に変換され、その後クエン酸回路をサイクルしていきます。

その工程内でATPが産生されるのです。

出典:吸収肉屋.jp 第14回 食肉の栄養 -ビタミン-

ATPを得るために〜電子伝達系〜

解糖系、クエン酸回路の工程内で水素が抜き取れれる工程があります。

電子伝達系はこの水素から電子を受け取り、いくつもの反応を経てATPを産生します。

酸素と糖質、脂質が無くならない限りクエン酸回路と電子伝達系のATP合成にて無限にエネルギーを供給できるのです。

ATPを得るために〜ATP-CP系〜

体内(筋肉の内部)に微量しかない、クレアチンリン酸をクレアチンとリン酸に分解する時に発生するエネルギーを使って、ATPを再合成します。

この反応に酸素は必要ありませんが、持続時間が10秒未満と短いため短時間、高強度の運動にて使われます。

エネルギー供給時間

解糖系のエネルギー供給は運動時間が30秒ほど経過すると供給し始め、クエン酸回路、電子伝達系のエネルギー供給は運動時間が1分30秒ほど経過すると供給し始めます。

運動時間エネルギー供給特徴
30秒以内ATP-CP系酸素を必要とせず、短時間高強度の運動で供給される。
クライミングでは極めて少ない手数のボルダーが主。
30秒〜1分30秒ATP-CP系+解糖系糖質が必要だが酸素を必要としない。乳酸が溜まる。
少し手数が多いボルダー、手数の少ないルートでのエネルギー供給。
1分30秒〜3分解糖系+クエン酸回路、電子伝達系糖質脂質酸素が必要。乳酸が溜まる。
数が多いボルダー、ルートでのエネルギー供給。
3分以上クエン酸回路、電子伝達系糖質脂質酸素が必要。
強度が低く長く続くルートやアプローチでのエネルギー供給。

糖質制限をするとエネルギー供給はどうなるのか

通常、糖質からエネルギーを得ている場合はピルビン酸がアセチルCoA、オキサロ酢酸になりATPを得ることができます。

しかし、最近流行っている糖質制限をすると、エネルギー供給の解糖系が働かないためピルビン酸ができなくなり、アセチルCoAとオキサロ酢酸ができません。

さらに、糖新生が起こりクエン酸回路内の「オキサロ酢酸」を使ってエネルギーを得ようとするため体内のオキサロ酢酸が無くなります。

簡単に言えば、糖質制限をすると解糖系が機能しないため、クエン酸回路で必要なピルビン酸が作られず、糖新生として筋肉や脂肪を分解しないとエネルギー供給ができなくなるということ。

しかし僕たちの体は糖質からではなく、他のエネルギー供給法でまかなえるようになっています。

糖質制限をしていて脂質を大量に摂っている場合にアセチルCoAが大量に生成されるのですが、それが肝臓で「ケトン体」というものに変えられます。

このケトン体はクエン酸回路を機能させるためのオキサロ酢酸の原料を作り出し、さらにアセチルCoAも作り出すため、クエン酸回路が順調に機能するようになります。

このように、エネルギー供給が糖質ではなくケトン体になっていることを「ケトーシス」といい、ケトン体をエネルギーにして行うダイエット方法を「ケトジェニックダイエット」と呼びます。

緩い糖質制限だと、ケトン体にエネルギー供給が切り替わりません。

なのでエネルギーを得るために糖新生を起こし、筋肉が分解されやすくなるのです。

緩い糖質制限

中途半端な糖質制限をすると、糖新生が起きるということをお話しました。

糖新生でまかなえる糖質の量は、1日80g。

脳だけでも1日に糖を120g必要とするため、糖質制限は血糖値が低下し、エネルギー不足、空腹感、インスリン分泌能力低下、感受性の低下などが起こります。

しかも糖質制限をやめて、糖質を大量に摂取すると体は処理ができなくなり、糖質は体脂肪に変わりやすくなります。

緩い糖質制限や頑張ったご褒美を体にあげてしまうとリバウンドが起きやすいのです。

緩い糖質制限をする場合、筋肉の分解を抑えるためにタンパク質を多めに摂取しましょう。

ケトジェニックダイエット

ケトジェニックダイエットをする時、糖質はゼロに近づけ、脂質を多く摂ります。

ケトン体を作るためには、脂質から変換されたアセチルCoAが大量に必要で、脂質が足りないとケトーシスになりにくいのです。

このときのPFCバランスは、30:60:10となります。

ケトーシスになるには本来、16時間以上飢餓をおこす必要があります。

16時間という期間で体を徐々にケトーシスにしていくと、その間に糖新生が進行しやすく筋肉が分解されてしまいます。

このことからエネルギーを糖質からケトン体への切り替えをする時は、もっとすばやく行うべきです。

血糖値を急降下させることでケトン体をエネルギーとしてすばやく使われるようになります。

そのためにはインスリン感受性を高め、インスリン分泌を促します。

ケトーシスにスムーズに入る方法

  • 糖質の摂取をゼロに一気に近づける
  • 運動をする
  • αリポ酸の摂取
  • アルギニンの摂取
  • ケルセチンの摂取
  • EPA摂取
  • シナモンの摂取
  • EAAの摂取
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まとめ

出典:糖新生の経路

今回はかなりコアな内容だったため、分かりにくかったかもしれません…

大事な部分だけまとめます。

  • ATP(アデノシン三リン酸)からリン酸が外れた時、エネルギーを放出し筋肉を動かす
  • 糖質や脂質が消化され、分解されていく工程でATPが作られる
  • 糖質は短時間、高強度の運動で使われやすい
  • 脂質は長時間運動で使われやすい
  • 糖質制限するとATPを作るための「オキサロ酢酸」が作られない
  • 「オキサロ酢酸」が作られないとATPを作る回路の機能が低下し、筋肉を分解してエネルギーを作ろうとする「糖新生」が起きる。
  • 糖質制限をして、脂質をたくさん摂るとATPを作る材料の一つ「アセチルCoA」が余る
  • 「アセチルCoA」は「ケトン体」となり、糖質に変わるエネルギー源となる
  • ケトン体をエネルギーとしている状態を「ケトーシス」という
  • 「ケトーシス」の状態でダイエットすることを「ケトジェニックダイエット」という
  • 緩い糖質制限はケトーシスにならないため、糖新生が起こりやすい
  • ケトジェニックダイエットをする場合はPFCバランスは30:60:10
  • 血糖値を急降下させることでスムーズにケトーシスに移行できる

まとめてもやっぱり分かりにくいですね…

ケトジェニックダイエットは流行っていますが、しっかり原理を理解した上で行わなければ筋肉の分解やリバウンドを起こしてしまいます。

気を付けましょう。

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